「キャッチャー・イン・ザ・ライ【ライ麦畑でつかまえて】」という本を読みましたので、感想を書いていきたいと思います。拙文ですがお付き合い頂けたら幸いです。

私が思うこの小説の大筋は、

10代の目から見える現状の社会体制や資本主義社会の批判、脱システムの思考醸成

でした。

20世紀最高のアメリカ文学の金字塔といわれる本作ですが、正直私の心には響きませんでした。

響かない理由①主人公が愚痴しか言わない

主人公であるエリート高校に通う高校生ホールデン(4校目)は、態度不良・成績不振でまた高校を退学することになります。

学校が合わなくて退学することは別に良いのですが、彼は自分が上手くいかない原因の多くを他者やシステムのせいにします。自分に多少問題があることは自覚しているようですが、それを制御することを覚えずどこまでも他責に徹する姿勢は読んでいて楽しいものではありません。

高校生の時にしか見えない社会や資本に対する嫌悪感は、私も素行の良くない高校生だったからよく理解できます。

その裏返しで当時はGreen DayやBlink-182のようなパンクロックばかり聞いて、高橋歩(サンクチュアリ出版創業者)のシステム(社会の普通)から外れることを生き甲斐とするようなライフスタイルにとことん憧れました。

ただ同時に正反対のような行動に見えますが、藤沢周平をむさぼるように読んでいました。

流麗な日本語、原風景が浮かんでくるような自然描写、人と人との友情や絆、歯を食いしばって生き続けること、絶対に許せないことに対して復讐するときは徹底的に準備して必ず成功させること。市井を懸命に生きる人々を描いた彼の小説から、社会とうまく折り合いをつけて生きることを学んだような気がします。

無実の罪で切腹させられた父の亡骸を、荷車に乗せて家まで運ぶ牧文四郎の姿が20年経っても忘れられません。

本作と年代も国も全く違いますが、人が自分が信じることに対してひたむきに取り組む姿というものは感動するものです。

翻って本作の主人公は世の中の全てに難癖をつけているようで、あまりに幼稚で偏屈なように見えてしまします。そこが読んでいて不快でした。

響かない理由②経済的にめっちゃ裕福な家で育つ、しかも毒親ではない

ホールデンの家族はみんなエリートで、住んでいるのは世界有数の大都市ニューヨーク。

New York City, 1967

おそらく親からも将来は資本家や政治家になることを嘱望されていることでしょう。そういった窮屈極まりない環境に嫌気が差している描写があまりにも多すぎます。くどい、分かったっちゅうの。

しかしながら当時の状況からも、主人公の両親が毒親と呼べるようなレベルではないように見えます。父親はともかく、少なからず母親は献身的である描写が何度も見受けられます。

それなのに経済的に恵まれたプレップスクール(例えゴミ溜めのように感じても)を4回も退学するなんて、呆れてしまいます。そんなに嫌ならば2回退学した時点でさっさと家出して、西部の牧場業にでも従事すれば良いじゃないか。

そんなガッツもないのだ。(※1950年代前半の米国内大学進学率は20%前後なので高校中退も珍しくなく、そんな選択肢も取ろうと思えば取れたはず)

結局のところ、経済的に恵まれた中二病の主人公が世間を疎み破壊的・破滅的に行動している様に、同情できる器は残念ながら持っていませんでした。

たとえサリンジャーが第二次世界大戦に従軍し苦悩し、この世の大人たちが構築している腐ったシステムに圧倒的なアンチテーゼを掲げたという背景を知っていてもです。

響かない理由③会った人全員の粗探しをする

ホールデンは人と会うたびにその人のネガティブな部分を洞察していきます。その描写がどうも粘着質で好きになれない。

唯一そういったものがないのは弟と妹だけです。

私たちは社会人なので、本音と建て前を使い分けるため本心でどう思っているかは分かりません。

ただ私は少なくとも知り合った相手に対しては、ポジティブな面に目を向けるよう努力します。こういった努力がない世界で平和は果たして築くことができるのでしょうか。

サリンジャーのこの作品は当時のプロテスタントや保守層からは大批判を食らったと言います。もし主人公のように破滅的な行動をとる人がマジョリティであるならば、アメリカ社会はとっくに崩壊していることでしょう。

それでも世界的に10代・20代が熱狂したというならば、それぐらい第二次世界大戦に近い年代は傷つき怒りを抱え続け生きていたのかもしれません。

最後に

The Catcher in the Rye

この作品には主人公のその後が描かれていません。

彼の一生は、読者一人一人の想像力で完成していくものなのかもしれません。

私はホールデン・コールフィールドがもう少し大人になって、今行っている破滅的な行動を社会を変革していくプラスのエネルギー(暴力ではない何か)に転換できるきっかけになれば良いなと思います。

ホールデンは世の中を資本主義の弱点を変革していくヒーローにもなれるし、歴史的な犯罪者にもなってしまう危うさを孕んでいます。

最後は妹のフィービーとの触れあいで自分の居場所を思い出し、家出は諦めますが、もし弟同様フィービーまで失ったら彼はどこまで奈落に落ちるか分かりません。

アメリカ文学の金字塔といわれる本作と、ここまで水が合わないことに少しショックを受けていますが、こればかりは仕方ありません。

以上本日もお付き合いいただき、ありがとうございました。

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