先日、一人称単数を遅ればせながら読みました。

村上春樹が2020年に出した短編小説集です。私が本格的に村上春樹を読み始めたのが丁度2020年ごろからなので、ようやく最新の短編小説に追いつきました。その頃はホントに精神的にどん底だったのですが、そこを救ってくれたのが村上春樹大先生なのでした(ありがとう!合掌)。

本作8篇の短編小説が織り込まれているのですが、私が特に心惹かれたのは後半の短編群でした。具体的には、「ヤクルト・スワローズ詩集」「謝肉祭」「品川猿の告白」「一人称単数」です。

「ヤクルトスワローズ詩集」

村上氏が生粋のヤクルトファンであることはもちろん知っていたのですが、彼が幼少期に阪神を応援し、早稲田大学進学とともに地元球団のヤクルトを応援し始めた時代の変遷が綴られていて、少し新鮮な気持ちになりました。

当時の芝の外野席でビールを飲みながら観戦するのは気持ちよかったんだろうな。最新鋭の北海道エスコンフィールドでクラフトビールを飲むのとは違う趣があります。

常勝ならぬ常負集団と言っても過言ではなかった当時のヤクルト・スワローズを応援し続け、負けておくことに慣れておくのも人生には必要だと考える彼に、思わず「村上春樹らしいな」と思った読者は自分だけではないはずです。

「謝肉祭」

現実の事件にありそうなサスペンスチックな作品です。今回の作品群の中で一番一人称を感じられ、これって村上春樹が現実に起こった出来事を、脚色して書いたのではないかと思ってしまうような文章構成になっています。

醜い女と端正な顔立ちの男の対比、気になります。

「品川猿の告白」

品川出身の猿が温泉旅館のスタッフとして急に話しかけてくる話。あり得ないけど妙にあり得そうと思ってしまうのは、村上氏の日本語の上手さですね。

女性の名前を盗ってしまうというのはどういうメタファーなんでしょう。千と千尋の神隠しで千尋がいきなり名前を湯婆婆に取られてしまうシーン、あれを思い出します。

「一人称単数」

がつんと鈍器で後ろから殴られたような錯覚に陥る最後の一篇。これまでの7編は伏線で、村上春樹は気をつけろよお前らと言いたかったんでしょう。きっと。

内容としては、普段身に着けないけどたまに無性に来たくなるスーツを纏ってお出かけするのですが、バーで全く知らない女性に急に罵られ「僕・私」は「恥を知りなさい」と言われてしまいます。どうやら「僕・私」の知人or元恋人の友人のようです。

「恥を知らない」=過去自分が行った与り知らぬ言動で誰かが傷ついていると勝手に解釈したのですが、どうなんでしょう。男ども気をつけろよと考えることもできるのですが、私としては村上氏が性別を強く意識して書いたともどうも思えませんでした。うーん、どうなんだろ。

以上本日もお付き合いいただき、ありがとうございました。

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